英語力を高めるためのトレーニングとしては「インプット」「アウトプット」の2つがあります。
インプットとは、単語や文法の記憶やリーディング、リスニングなど英語による情報を頭に入れるトレーニングのことを指します。
逆に「アウトプット」とは、ライティングやスピーキングなど、自ら持っている知識やスキルを使って発信するトレーニングのことを指します。
以前の記事では、インプットの重要性についてお伝えしました。
[blogcard url=”http://t2raw.xsrv.jp/2020/12/08/%e3%80%90%e5%ad%a6%e6%a0%a1%e8%8b%b1%e8%aa%9e%e3%80%91%e3%82%84%e3%81%a3%e3%81%b1%e3%82%8a%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%83%e3%83%88%e3%81%af%e8%b6%85%e9%87%8d%e8%a6%81%ef%bc%81%e3%80%90%e3%82%b3/”]
今回はアウトプットのトレーニングの重要性についてもご紹介したいと思います。
アウトプットは特に日本人に足りないトレーニングのため、大学受験での勉強などですでに十分なインプットがある英語学習者であれば、アウトプットのトレーニングを少しこなすだけでも大きく英語力を高めることができるようになります。
Contents
アウトプット仮説とは?
第二言語習得におけるアウトプットの重要性を唱える仮説として有名なのが、トロント大学のメリル・スウェイン名誉教授による「アウトプット仮説」です。
この理論は、スウェイン教授が英語とフランス語のバイリンガルプログラムを行った経験がベースになっています。
スウェイン教授は「イマージョン・プログラム」と呼ばれる英語が母語の子供に対してフランス語のみでの授業を行う実験を行いました。
カナダは英語とフランス語の2言語が公用語です。そのため、子供のころから英語ネイティブにフランス語を教えたり、フランス語ネイティブに英語を教えたりしています。
大量のフランス語をインプットすることになりますが、一方でフランス語をアウトプットする機会はほとんどありませんでした。
第二言語習得におけるアウトプットの3つの効果

スウェインは次の3つの効果があると主張しました。
- 気づき機能(Noticing function)
- 仮説検証機能(Hypothesis testing function)
- メタ言語機能(Metalinguistic function)
気づき機能(Noticing function)
Noticing function(気づき機能)とは、学習者は話す、書くといったアウトプットをすることで、自分が伝えたいこと(Want)と、自分の能力で伝えられること(Can)とのギャップに気づくことができるというものです。
このギャップに気づくことで、ギャップを埋めるために自分の中で不明瞭となっている知識を補強したり、新たな知識を得たりとインプットへの注意がより促されるようになるとしています。
実際に英語を話そうとしたときに、「あれ、この言葉は何と言えばよいのだったかな?」と感じた経験がある人は多いかと思います。
似た例としては、「自分では理解していたつもりなのに、実際のテストを受けると思ったより答えられない」ということはよくあります。
このように、アウトプットしようとすると自分のいまの英語レベルと、目指すべき英語力のギャップに気づきます。
これが、アウトプットの「気づき機能」です。
自分の英語力(第二言語の知識)が十分でない、と自覚する効果です。
仮説検証機能(Hypothesis testing function)
仮説検証機能とは、実際に英語を話してみて相手の反応を見て、自分の英語が通じたか通じていないかを見ることです。
人はアウトプットの中で自分の文法や単語が合っているかを試し、相手にそれが正しく伝わったか、伝わらなかったかという反応を見ながらアウトプットの改善を進め、その繰り返しを通じて正しい知識を定着させていくということです。
相手が理解していないようであれば、自分の英語の伝え方が適切ではないとわかります。相手の反応が、自分の英語に対するフィードバックになるとの考え方です。
ただし、相手の英語力が自分より高くないと、フィードバックの意味はありません。なぜなら、単に相手の英語力が低いせいで内容を理解できない可能性があるからです。
メタ言語機能(Metalinguistic function)
メタ言語機能とは、自分や他者が話した内容に対して振り返ることです。たとえば、「さっきの発言は、三単現の”s”が抜けしまったな」と振り返る、などです。
このように振り返り、内省することで言語に対する意識が芽生えます。
つまりアウトプットすることで、インプット時には目が向かなかった細かな文法ルールに意識が向くようになるということです。他人に話した内容を振り返ったり、他者から指摘を受けたりすることで、学んだ内容が定着するとの考え方です。
インプット仮説とアウトプット仮説の整合性
クラッシェンの「インプット仮説」と、スウェインの「アウトプット仮説」は矛盾しているように思えます。
しかし、スウェインもインプットが第二言語習得に重要であることは認めています。ただ、インプット「だけ」では言語は身につかないと主張しています。
実際、「アウトプットだけで第二言語を習得できた」という研究結果はありません。なぜなら、話したり書いたりするアウトプットは、既に頭の中にある知識を使うからです。インプットがなければアウトプットできないということです。
両者を合わせると、第二言語を身につけるためには「大量のインプットと少量のアウトプット」が重要です。
アウトプットによる効率的な学習法

それでは、具体的にアウトプットのトレーニングを行うときは、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
第二言語習得の観点から、効果的にアウトプットの力を高めるためのポイントを5つご紹介したいと思います。
- アウトプット機会を増やす
- ギャップを把握したらインプットにつなげる
- フィードバックがある環境でトレーニングする
- 回避しているかどうかを意識する
- 自動化できるまで繰り返す
1. アウトプット機会を増やす
アウトプットのトレーニングにおいて重要なのは、とにかくその量を増やすことです。特に日本においては仕事で英語を使っている方を除けば、英語を日常的にアウトプットできる機会は非常に限られています。オンライン英会話を利用する、英語で日記を書く、友人とのチャットを英語にする、など、日常的に英語をアウトプットする環境を用意することが前提となります。また、定期的に英語圏へと海外旅行に出かけるのもおすすめです。
2. ギャップを把握したらインプットにつなげる
スピーキングやライティングの練習をしていると、必ず「これ、英語でなんて言うのだろう?」「この英語で正しいのかな?」といった疑問が出てきます。こうした疑問は、正しいインプットを増やす絶好の機会となります。疑問が出てきたときにそのまま放置していると、せっかくのインプットの機会を逃してしまい、アウトプットの力は高まりません。自分が「伝えたいこと」と「伝えられること」との間に少しでもギャップを感じたら、その都度メモをとるなどして後からでもよいのでしっかりとその表現をインプットできるよう習慣化しましょう。
3. フィードバックがある環境でトレーニングする
英語のライティングやスピーキングにおいては、間違った発音や単語、文法の選択をしたとしても意味だけは正しく相手に伝わることがよくあります。しかし、意味が伝わったからといって間違った英語を何度も話していると、誤った言語規則を習得してしまう「化石化」という現象が起こります。この化石化が起こると、誤りを正すのに長い時間がかかってしまいます。そのため、アウトプットのトレーニングをするときは、できるかぎり相手からフィードバックがもらえる環境で行うようにしましょう。例えばオンライン英会話であれば、間違った発音や単語の使い方をしたときはその場で指摘してもらうようにするなど、アウトプットの量だけではなく質にも意識を向けたトレーニングを行うことが重要です。
4. 回避しているかどうかを意識する
自分が伝えたいことを、自分が十分に運用できる知識だけでアウトプットしようとする傾向があることを「回避」と呼びます。例えば、本当は伝えたい内容が10あるにも関わらず、英文が思い浮かばないので5だけで伝えるのをやめてしまうといった行動もそうですし、自分の意図に100%合致する単語が分からないので、多少意図と違っていても、自分がよく使う簡易な表現だけを用いて伝えるといった行動です。難しい内容を簡単な英語に置き換えてアウトプットすることができる能力自体は評価されるべきですが、この回避が頻繁に起こっていると、いつも使い慣れている同じような表現ばかりに頼ってしまい、なかなか新しい語彙や表現の幅を増やすことができません。アウトプットをするときは、ついつい「回避」をしてしまっていないか、客観的に自分のスピーキングやライティングを意識するようにしましょう。
5. 自動化できるまで繰り返す
アウトプットのトレーニングにおいて重要なことは、とにかくアウトプットを「自動化」できるまで繰り返し練習するということです。どのような英文を話そうかを頭で考えたりしなくても自然と口から言葉が出るようになれば、その表現は身についたと言えます。自動化のトレーニングは、車の運転や楽器の練習と同じで、繰り返しあるのみです。
まとめ
いかがでしょうか?英語学習におけるアウトプットの重要性がお分かりいただけるのではないかと思います。これまで日本ではアウトプットのトレーニングを十分に行える環境がありませんでしたが、最近ではリーズナブルな価格で毎日英会話ができるオンライン英会話や、気軽に英会話を楽しめる英会話カフェなど、アウトプットに使えるサービスが増えてきています。ぜひ上記の点を意識しながらアウトプットの機会を増やしていきましょう。